いくりんのブログ

つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

好きだった彼女とは付き合うことはない

彼女は、東京の大学に進学し、特定の学問について学んでいた。当時はまだメールが主流の時代だったから、幸運なことにメル友みたいなものになった。友達になることなんて簡単かもしれないが、好きという感情が空中分解して精神的に不安定な状態にもなりやすいお年頃。離れ離れになると思った大学は電車で3時間ほどの距離。返ってくるのかこないのかを待つ緊張のメールのやり取りが昔はあったらしい。

 

関係性の継続にそこまで躍起になる必要はない。しかしながら、不思議なもので、男らしくもない彼は普通に男の子の見た目をしていて女の子が好きだったから、友達の女の子が忘れられなかった。一度や二度フラれたくらいで諦めるようなポンコツメンタリティーでもなかったようだ。

ぼくはそれでも良いような気もした。

 

デートに誘うと断られてしまって、その気がないことが分かっていたって、そうしてしまうのは正しく恋なのだろうか。それとも向こう見ずで無鉄砲なだけの天然坊やなのか。首尾よく二人きりで過ごしたデートの内容を細かく覚えていられるほど余裕がなかったりして、何となく一緒にいたいだけで彼にとって彼女は何となく必要な存在で良かったと思えたのか。

 

好きな人に好きな人がいれば、自らの好きな人を応援すべきか、好きな人を振り向かせるべきかという難題にぶち当たる。しかし、好かれているということを解っていながら、好きでもないと思いながら、優しい愛を振りまきおいしい蜜を吸い合う。これはなかなかにシュトゥルーデルが躍ると傍から見れば思える。

 

耐えられなくなってしまった彼は、重たいことを言う。要するにキレちゃったわけだ。でも彼は優しいから人を殴ったりしないし、暴言を吐いたりもしない。「あなたはズルい」と言う。そして「消えてください」とは言わない。自分が「消える」と言う。あなたの世界から、自分が愛したあなたのいない世界へと逃げていきますと。

 

でも、そんな簡単に違う世界に行けたら、彼のそれまでの人生何だったんだよって感じだし、都合よくあなたからいなくなったとしても、突然彼女が現れて「ふふふ」と笑って過ぎ去っていったら、もうその日から彼は彼女に夢中だよ。

 

以上。