いくりんのブログ

つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

ツブレル

 つぶれそうなまでの問題を抱えながら生きていきたくはない。つぶれてしまえばまた一からやり直せばいいとは言うものの、それが周りに与える負の影響は大きい。

 

 企業に所属していると、その企業の業績がどうなっているか、何となくでも把握しているものだ。売上と利益という分かりやすいただの見てくれに騙されて、財務内容の脆弱性なんて知らなかったということなんてよくありそうなものだ。所属企業が倒産してしまえば、職を失い、不安定な生活に身を置かれることになるかもしれない。もちろん、転職のいいきっかけとも言えなくはないが、自社が倒産したなどという厄介な状況には極力遭遇したくない。従業員である自分が悪いなんてことはなく(選択の失敗という問題はあるが)、経営者の戦略や見通しの甘さや管理能力の問題が多分にあるのだが…。

 とはいえ、多くの人は自社の倒産に巡りあうことはないだろう。それよりも現実的なのは、得意先が業績不振やコンプライアンス上の問題で倒産したといったものだ。得意先が倒産することは自社に直接的な関わりはないかと思うかもしれないが、大いにある。

 

①信用リスクってなに?

 例えば得意先が倒産した場合、大きな問題は自社が得意先に有していた債権が焦げ付くことだ。企業間の取引では商品の提供と代金の支払いをその場で同時にやり取りする(同時履行)というよりは、商品の提供を行い、販売代金を後日まとめて支払ってもらう。これを信用取引といい、このような掛け払いのリスクを「信用リスク(与信リスク)」と言う。商品を引き渡すということはその商品に係る現金(商品代金)を得意先に貸していることと実質的には同じになる。貸したお金は期日までに返してもらわなければならないが、この返してもらえないリスクが信用リスクである。人がお金を誰かに貸すときのことを考えてもらえば分かるが、その相手が貸したお金をきちんと返してくれるか、返すことができる資金を確保できるかということがお金を貸すときの判断基準になる。要するに、人ならば相手のことが「信用」できるかということで、これが企業になると、経済的な支払能力のことを「信用力」と言ったりするわけだ。この信用力を測る指標となるのが、企業の有している決算書や市場における地位、商品力やブランドイメージ、経営者の人柄や能力などになるわけだが、ここでは深入りせず、企業が倒産するということはどういうことなのかを説明していく。

 

②なぜ企業は倒産するのか?

 ビジネスパーソンであれば、一定の財務諸表分析能力を有していることが理想とされるが、とは言っても日々の業務や商品の販売に追われて勉強する余裕がないという人も多い。近年では書店で非常に読みやすく理解しやすい会計本が売られていることも多く、忙しい社会人にとってはありがたい話ではある。もちろん、本に書かれていることを理解したとしても実際の業務においてそれが繋がる瞬間がなければいまいちピンと来ないという状況になりかねない。どのようなビジネスに関する理論も実践を通して理解できることは多い。それは理論がビジネスの実際の積み重ねによって成り立っているから当然と言えば当然なのであるが。

 企業はなぜ倒産するのかという疑問に答えるには財務諸表分析を通して論理的に倒産への道筋を示していく必要があるわけだが、ここでは簡単に、「手元の資金がなくなるから」というふうに捉えておいていただきたい。倒産は債務の支払いができなくなった状態のことであるから(※倒産というのは法律用語ではない。一口に倒産と言っても、破産から民事再生、会社更生、手形の不渡りによる私的整理など様々な類型がある。)、支払うための現金がなくなってしまえば企業は倒産せざるを得なくなる。その現金は単に商品を売ることによって得意先から振り込まれた現預金だけでなく、土地や建物などを売ることで得られる資金も含まれる。企業が常に売上を伸ばし黒字を確保していればある程度問題はないものの(※黒字倒産などの場合もあるがここは単純化のため省略する。)、そうは行かない企業も多い。赤字体質で保有する現金が減っていき資金繰りに行き詰まると、得意先から商品代金を回収し現金化するまでの時間をやり繰りしていく余裕がなくなる。そのため自社の資産を売ることによって何とか現金を確保することになる。このような兆候が見られると非常に危ういと言える。

 

③得意先が倒産すると何が困るのか?

 企業が営業活動を行う以上、常に安定して固定的な信用力を有するなどということはあり得ない。常に流動的なので衰退していく企業があるのは当然だが、企業の業績が悪化し続けて倒産してしまうと多くのものが失われてしまう。

 自分が所属する企業の得意先が倒産してしまうと、困ることが多くある。一つは、貸したお金が返ってこないことだ。①で説明したように、得意先に商品を販売するということは実質的に現金を貸していることと同じであるため、得意先が倒産してしまうと貸した現金が返ってこないということになる。それはある意味詐欺的で残酷なものなのだが、得意先が倒産してしまうと、その会社の社長がたとえ金持ちだったとしても、自社の貸したお金は返ってこない。自社の損失になるわけだ。これを貸し倒れ(焦げ付き)と言ったりするが、貸し倒れによって返ってこなかったお金を稼ぐためにはその何倍もの追加の売り上げが必要になってくる。その代償は大きい。

 二つ目は、貸し倒れの処理に追われることで通常の営業活動に悪影響が出るということだ。得意先が倒産すると貸した金が返ってこないが、そうは言っても何とかして少しでも返してもらうように直接現地に向かって交渉したり、弁護士に相談して方策を練ったりする。徒労に終わることが多くてもこの債権回収の努力とその事後処理はしないわけにはいかないのだ。このような後ろ向きの仕事が増えることで、企業の本来の営業活動に充分な時間を割くことができず、従来の販売活動だけでなく新たな事業への投資やビジネスの構想を練ることが難しくなる。

 三つ目は、会社の損失は金額的なものだけでなく、信用不安にも繋がるということ。単に損失が出るだけならまだしも、その情報はあることないこと周囲の企業に広まり、会社の信用力に影を落とすことになる。貸し倒れに遭うことはある程度仕方ない面もあるのだが(誰にも未来は完全に予知することはできない)、それが目立つようになって来るとリスク管理能力のない企業として信用ならないと判断される恐れがあるわけだ。これによって商売に悪い影響が出る可能性は否定できない。

 四つ目は、会社内の士気の低下に繋がるというものだ。分かりにくいかもしれない。企業の営業活動は売上を上げ利益を確保することが基本であるが、せっかく売上を上げたとしても、代金を回収できないとなると、勘定合って銭足らずである。これを従業員の心理的な側面で捉えるなら、営業努力をしても会社の利益にならず報われない状況は営業活動のモチベーションを下げることになる。従業員の活力のある会社は良い会社のひとつの側面でもある。会社は経営者の道具ではなく、人によって動かされているということはこのような点にも現れている。

 他にも得意先の倒産によって被る不利益として自社の資金繰りの悪化、最悪の場合倒産ということも考えられる。得意先から現金を回収できないとなると、その現金を回収することを見越して経営していた自社の資金繰りが行き詰まることなり、最悪の場合、自社も倒産する可能性がある。これを「連鎖倒産」と呼ぶが、特に自社にとって重要顧客だった大口の得意先が倒産した場合、この悲惨な事態が懸念される。

 得意先の倒産による影響は細かく見ていけば他にも考えられるだろうが、大まかに見ていくと以上のようになる。得意先の倒産は自社にとって非常に困る問題で、できるだけ避けなければならない。そのためには信用リスクを管理する必要がある。それが与信管理の要諦であるが、それについてはまた気が向いたときに細かい論点を上げながら説明していけたらと思う。